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やりたいと思うから、動くのでしょう?



 私はホテルの廊下を一人歩いていた。前々から思っていたけれど、ホテルの床が絨毯っていうのは私の癇に障ることの一つだ。7センチピン・ヒールを履いている身としては不安定で危ないし、キャリーの車輪も沈んで運びが悪い。大体、ホテル側だって掃除が大変で、いいことなんて何もねえ。
そう思っていると、目的の部屋にたどり着いた。
突き当たりから数えて3つめの603号室。
鍵は開いているので遠慮なく入ることにする。別にこれは扉がオートロック式ではないからというわけではなく(実際ちゃんとオートロック機能を備えている)、この部屋の主がノブに傘の持ち手をひっかけて、傘本体をドアにはさんでロックがかからないようにしておいたからだ。
別に私が口を挟むことじゃないかもしれないが、この部屋の住人、斎藤はセキュリティというものに頓着がまるでない。それでいいのか。それで。
昨今いつ後ろから刺されてもおかしくないし、むしろ刺すか刺されるかといえるほど物騒な21世紀に、誰から見ても開いている無防備な部屋。

いきなりドアを開いた黒人サングラスのおっちゃん、または覆面の怪しい中国人3人組、はたまた顔面傷だらけのがたいのいい兄ちゃんが、
「おい、命が惜しかったら大人しく有り金全てこっちによこしな。妙なマネしやがったらコイツがお前に火をふくぜ」
とかなんとか銃をちらつかせながら言っちゃって、斎藤がお金を出したら
「クク…ありがとよ」
とか捨て台詞をキメて結局最後に斎藤を殺して帰るんだ。うわあ。

……たまに自分の想像力に笑う。

不用心だから鍵はかけておけと何度も注意をしようと思ったが、もし斎藤が私の想像通りに死んだら…。そう思うとはらはらしたが、斎藤が死んだら死んだで面白いから、今日もなにも言わないことにした。

「斎藤さーん」
返事がないから寝ているかなんかだろう。そう思ったら予想通り、斎藤はベッドの上で寝ていた。スーツのジャケットを脱ぐことも靴を脱ぐこともせず、まるくなっている。――胎内回帰か。胎内回帰願望なのか!
とりあえず荷物をクロゼットの前に置いて、斎藤を起こすことにする。
「まったく、人を呼びつけておいて眠るか普通」そう吐き捨てたが、実際こいつは普通なんかではないことを思い出して、薄く笑った。
そのままベッドに腰掛けて、右手で斎藤の鼻を、左手で口を押さえ付けた。これでいい。
…10秒
…20秒
…30秒
40秒に差し掛かるところで斎藤は「ぐぉほっ」と根をあげた。
頭を揺らすので大人しく手を話してやると、小刻に息を吸いながら薄く眼を開けた。
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